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全盲観劇ダイアリー

全盲観劇ダイヤリー 尾身美詞(おみみのり)さん、追っかけレポート2018年冬

2018年1月 トム・プロジェクト 『明日がある、かな』 at 紀伊國屋ホール

明日がある、かな
写真:『明日がある、かな』ポスター

たぶん初めて紀伊國屋ホールへ。いやでもなんか本屋で時間潰して何か観たような記憶もなきにしもあらず。結論として観ていないということに。
今回は1964年に東京オリンピックが開催された頃の一地方都市が舞台。
なぜ花粉症が発生したかというメカニズムを解明しようとするも、様々な難題が待ち構えている。主人公はぜんそく、花粉症という症状に悩まされている。
個人的にこのようなテーマは中学校の時にアレルギーがひどくて学校に行かれなかった頃を思い出すので行きたくなかった。観てもきっと昔を思い出して作品の世界には入れないかなと思っていた。

しかし、今回みのりさんはナースで登場ということでチケットを予約。ご本人もナース役は初めてとのこと。特にコスプレが好きな訳ではないけれど、みのり看護師に癒やされたい。
みのりさんの役はもちろんナースな訳なのだけれど、道路の開発で立ち退きを迫られている一家。しかし、それに抵抗運動をしているという。周囲からもその反対運動に対していやがらせも受けてしまう。
高度成長期の日本では成田空港をはじめとして随所にこういう強引な開発はおこなわれていた歴史がある。
花粉症を高度成長期の負の遺産として描いているのだけれど、多くのテーマが混在してしまって僕としてはどれにフォーカスしていいのか分からなかった。
ナースが反対運動をしているという設定にもいささかの強引さを感じる。そして時間が経過すると、あっさりと白旗を揚げてしまう。
たぶん他の観客の皆さんには良い作品なのかもしれないけれど、脚本はどうしても馴染めなかった。
つまり、花粉症の原因を突き止めることはしても、花粉症を治すあるいは拡散しないという運動なり啓蒙する話にはいかない。僕には社会悪だからと訴えても次の展開が見えてこない。『明日がある・かな』と不安げな題名から「かな」を取る内容だと思っていたので。
そこに昔アレルギーを治すのに相当の時間恐らく15年以上かかった者からすると、そんな提示をされても、根本原因を正すという、もしかしたら無理かもしれないということに対して立ち上がって欲しかった。

そんな不満の残る作品の中演じたみのりさんはいつものように素晴らしい演技!
僕がみのりさんを観ていて勝手に腹の底から感情をぶつけるのを「みのりスクリーム」と呼んでいます。
主人公が急にぜんそくの発作を起こした時に周囲に向かって「私は専門家です!!」とみのりスクリーム登場!
これを聞いたらみんな「はいはい、すみません」と従ってしまう勢いの声音。
何歳の設定かは不明でしたけれど、そのナースさんはお年頃なのに独身。
主人公の家族かな?忘れましたが「そろそろ結婚しないとね」
みのりナースはふてくされて小声で「うるさい」とつぶやく。個人的に爆笑のシーン。もちろん会場も「あはは」というシーンなのですが。ちょっと待てよ、笑っちゃいけないシーンじゃなかったのかと思っているとそこでみのりさん退場。
終演後、みのりさんとご挨拶!
僕が「最後のセリフ良かったです」と言うと、「うるさい」とつぶやくシーンをプチ再現して頂きました。

2018年1月 ワンツーワークス&StoneCrabs共同制作 『アスファルト・キス』 at 池袋アウルスポット

アスファルトキスフライヤー
写真:アスファルトキスフライヤー

もうこの相反する言葉を組み合わせたタイトルでグッときて速効予約!みのりさんのブログで告知する前でした。
脚本はブラジルのネルソン・ロドリゲス。1950年のブラジルのリオが舞台。雨の中バスの事故で、ある男性が瀕死の重傷を負う。間もなく命果てる男性が寄り添っていた男性に「キスをしてくれ」というところから話はスタートする。
みのりさんはこの作品はもちろんブログで紹介していたけれど、助演のような出演かなと思いきや、バリバリの主演女優!!もっと宣伝してれば全日程行かれたかも。というのも今回はたったの4回しか公演がない。
他は予定が入っているのでしかたないかと思いながらしっかりと観劇。

脚本はかなり興味深い内容。マスコミの偽りのゴシップ記事、企業の隠蔽体質、警察の権力の横暴、不倫、堕胎、同性愛。
かなり保守的なカトリックでは倫理に反するものが随所に取り上げられている。当時この内容を書いたロドリゲスもスゴイけれど上演出来たのもスゴイ。
みのりさんは新婚1年目のかなりのろけてラブラブのお嫁さんのセルミンヤ。妹に「私って幸せでしょ、幸せって言って」といささか強引に迫る。
しかし、新聞に旦那さんがその死んだ男性にキスをしたと書かれ、世間はそれを同性愛と感じ取る。そしていつしか死んだ男性は旦那さんがバスへ突き飛ばして殺したのではないかと嫌疑をかけられる。
みのりさん役のセルミンヤも少しずつ旦那さんに不信感を持って行く。その心情の変化が短い劇の中で見事に表現されている。
後半には「私は新婚生活をもっと楽しみたいから堕胎をするの」とエゴイスティックな女性に変貌していく。そして同性愛のゴシップ記事から端を発した疑惑がセルミンヤに信じるものをなくし、「あなたのキスには彼の唾液が混ざっている」と吐き捨てて去って行く。そんな感情の起伏や堕落や怒りなど、様々な感情が入り組んだ役を見事に演じきっていた。その最後のセリフは恐ろしいほどに心に突き刺さった。みのりさんスゲエ。

これは単なる「みのりスクリーム」だけでは表せない演技の極みです!これは映画『この世界の片隅に』でも共通する演技力というかそのキャラクターになりきっている一種の恐ろしさを感じます。何か賞をあげたいです!
ラストは父が溺愛していた娘セルミンヤを取られたと思い込んでいる旦那を射殺し、今まで一度もファーストネームで呼びかけたことのない彼の死体に対して「アランドール」と語って幕が下りる。
エンディングはもう全く救いがない内容。
しかしながら、元をただせば、瀕死の男性がキスを求めてきたのならば、キスをするという行為は崇高なこと。
バスの事故のシーンは他の役が語るだけなので、そこを少し想像してみる。
「嗚呼、私は喜んであなたと、この大地に接吻をしましょう。あなたの罪はそうして消えていくのです。これで安心してあなたは役目を終えて、イエス様のご加護を得られるでしょう」
その死を見送り、アランドールは命を救えなかったことに対して無力さを嘆く。そういう場面を想像してしまいます。
救いのないエンディングだけれど、冒頭に全ては語られていないその「アスファルト・キス」をする人の崇高さがテーマではないかと感じた作品でした。
こんなに変化が激しい演技をみせてくれたみのりさん。個人的には観た中では『この世界の片隅に』と並ぶように名演!

ズキンとやられた直後に挨拶したので何を話したのかよく覚えてない。最後に挨拶をしたので演出家さんとのミーティングが始まっている様子だったので急いで外へ。
それを観たのが木曜日。千秋楽が日曜日で埼玉でボランティア兼取材。それが少し早く終わったので急いで池袋へ。ありました、当日券!
かなり後方でしたが、また熱演を観劇。
信じていたものが外部のバイアスによって変化し、そのアランドールに愛を確かめることもなく悪魔のように変化していく。
本当に、何度も観たい演技だったので、2回行かれて幸せでした。
フランコ・フィギュレドは定評のある演出家さん。イングランドのモダンなエッセンスをこの舞台でも表現していたはずですが、すみません、ビジュアルの関係かよく分かりませんでした。勉強しておきます(汗)
終演後にご挨拶。ただ作業の帰りなのでジャージ姿。とはいってもしょっちゅうクラシック音楽の演奏会にはジャージで行っているけれど。
最後の最後に挨拶をしたので、「みのりさんの演技は最初観た時から・・・」と語っていると「えーロビー閉まりまぁす」とスタッフの声。
急いで外へ行ってお別れ。言いたかったのは「最初みのりさんの演技を観てから、この役者さんって人間の暗部を表現出来る希有な方だと思ってました」と伝えたかったのでした。
みのりさんを観ていると、時々白石加代子さんのおどろおどろしい役柄が被る時があるのでそこはとっても魅力です。もちろんキラキラキャラやコミカルなキャラも好きですが。

2018年2月 7人新劇ユニット On7(オンナナ) 第4回公演 『かさぶた』

下北沢演劇祭参加作品 at 下北沢小劇場
フラッグ
街をあるくとあちこちにフラッグが。

待ってました!みのりさんのファンになるきっかけとなったのがこのOn7の舞台。本公演は約1年半振り。待ちに待っていた公演!
2月3日から11日までおこなっているのでまずは初日のチケットを確保。後はトークショーの日であったり音楽がライヴで演奏される回もあり、かなり悩む。
トークショーのある6日に予約を入れたけれど、一緒に行く予定だった母が、妹が急病になって倒れたので一緒には行かれず。ただ病気は極軽いもので心配はいらない様子だったけれどかなりバタつきました。
今回身体表現があるので、ビジュアルがないと厳しいかなと思い、演劇ボランティアさんを紹介してもらったので調整。ただ、今回調整する時間が短かったので演劇ボランティアさんはは調整出来ず。誘導ガイドさんと一緒に観劇。

ステージには何と砂が敷き詰められている。上野の森音楽祭の小澤征爾指揮の『エレクトラ』でも土を敷き詰めて歌手は素足で歌うという演出を思い出す。荒涼としたイメージのオペラの演出。
ただこの土は砂塵といった方が近い。飛び散るので劇場ではマスクを配布。こんな舞台観たことがない。アングラとも違う、何かスタイリッシュでアヴァンギャルドで尖っている独自の路線。
ちょっと遅く行ったので後方の席で観劇。ここまでは砂は飛んできませんでした。客席は満席!朝日新聞にも取り上げられた影響もあるのでしょう。

新聞
入口にはその新聞も貼ってありました。

土=死 そして開演前から聞こえてくるのは水のしたたる音=生命の源。砂塵が舞い上がってスポットライトに映る姿も想像して何かのメタファーなのかと考えながら開演を待つ。
ピアノの伴奏に合わせて愛する者を失った悲しみと捉えられるポエムが流れる。それからは身体表現。
何も分からないかなと思っていたけれど、ブレスがかなり聞こえる。そのことで喜怒哀楽が伝わってくるのです。もうこれは「ブレスアート」です!子供をあやすシーンで優しく揺らす身体表現では、それだけでも伝わります。
人間に入ってくる情報の8割は視覚と言われています。でもその2割でも表現がかなり伝わってくるので果たして20パーセントだけなのだろうか。集中していればそれは100パーセントとはいわないまでも決して20パーセントじゃない。他に例を挙げれば胎内教育はほとんどが振動=音なのだから。

途中自虐ネタを含めた15分くらい続くスキャットも圧巻!場内からはかなりの笑い声が。
「みのりスクリーム」も健在!スキャットの後半で「選挙行っても変わんないし~~」の「~~」ではドレミファソラシのように上昇し、声音もクレッシェンドされる。ただまだ70パーセントくらいかな。
舞台の砂と水のように、死から生。そして生から死へのクロニクル的連続性を強く感じました。
傷を恐れず将来へ向かい、傷が出来てもかさぶたが出来る。その積み重ねこそ生の営みだとも感じました。

そして千秋楽の日にまたしても劇場へ。みのりさんのブログによると、答えはその人それぞれの中にあるということが書かれていた。その週は寝る暇もなくプロジェクト案を立てていたのでその日は1時間睡眠。
でもそんなふやけた脳で、いままでの考えを払拭したり、「かさぶた」というタイトルに自分の意見を無理矢理こじつけていないかと思い、リセットが出来た。
今回も誘導ガイドさんと一緒に会場へ。というのも前方でその砂塵を感じたかったから。早めに行って整理番号1番をゲット!そして開場と同時にガイドさんと一緒にダッシュで最前列中央を確保!普通こんなことを誘導ガイドさんにしてはいけません。
開演までぷらぷらしているとみのりさんへのお花が。送り主はトム・プロジェクト様。かなり厳しく書いてしまったけれど、このお花を見て次回も競演するようだったら行きます!

書き初め
そして、劇場のドアにはみのりさんの筆による紙が。これって書き初め?

初日の情報を少しつかんでいたので、ここも音を聞き逃さないように集中。椅子の上にロングドレスで上がるシーンは何かへの憧れか、そこを出したいのかなどという意味も考える。
そして前回よりも足音はつま先から着くのか、かかとから着くのかもはっきり分かる。これは後ろでも分かるけれど。そこからどんな表現をしているのか想像する。
彼女らは生まれて傷つきながらも女優を目指し街を離れたり、みのりさんは愛した街に残りパン屋さんを目指す。なぜか姫というニックネーム。今、自分が書いているキャラが姫が出てくるのでなんだか個人的におかしい。
やはりここで感じるのは、クロニクルにせよ、生から死というような連続性。
飲み会をハデにやっている中、一人孤独に水を飲んでいる彼女は果たして何に傷ついたのか。もしかしたらかさぶたも出来ないほど傷ついてしまったのかもしれない。
かさぶたとは生まれては消えてこそ役目を果たす刹那的存在。カズオ・イシグロの『私を離さないで』の主人公のドナーのキャシーを思い出す。彼女はポッシブルのために生まれて死んでいく。そんな姿も重なる。
自分は誰かのために、思想のために、平和のために傷を受けながらもかさぶたになるような行為をしただろうかと自問する。それは自分が最も崇高だと思う自己犠牲のために何をしたのかと考えると、何もしていないと感じる。
この舞台で観客に解釈の自由を与えることが出来るのはOn7の緻密に計算された流れによるところが大きいと思う。演出家さんと彼女らがゼロから脚本や設定を築き上げ、それを与えてくれる姿には感動をおぼえます。そして彼女らがこの舞台に命をかけて取り組んでいる姿も見えてくる素晴らしい舞台でした。

最終日のマチネが終わりみのりさんに挨拶。
僕 「残り1回になりましたが、どういう心境ですか?」
みのりさん 「一年の成果がね・・・」
とうつむき加減につぶやいていました。それはもう1回やれば解放されるという満足感というよりも、あと1回で1年間積み上げてきたものが終わってしまう、そんな寂しさがにじんだ声音に聞こえました。

宮山知衣さん
だがしかぁし今回はお世話になったおみやさんこと宮山知衣さんとご対面!
とてもフランクでフレンドリーな会話。二股なのか浮気なのか。でも素敵な方とお知り合いになれて嬉しかったです!
そして初対面なのにツーショットをずうずうしくお願いしてパシャリ。

次回は1年後かなぁと思っていたら、何と8月に第2回目の『その頬、熱線に焼かれ』がリバイバル上演決定と。
ただ原爆関係のストーリーなので、極度のトラウマがある自分にはどこまでこの作品と対峙出来るかは分からない。

今年冬はかなりハイペースでみのりさんの舞台を観れたシーズンでした!!

作家 石井宏幸

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